「うちは大丈夫」は危険。ランサムウェアに狙われやすい企業の特徴と実際の被害事例
「うちは大企業ではないから狙われない」
「重要な情報はそれほど持っていない」
「セキュリティ対策は最低限やっているから大丈夫」
そう考えている企業ほど、ランサムウェアの被害に遭うリスクがあります。 ランサムウェアとは、社内のファイルやシステムを暗号化して使えなくし、復旧と引き換えに金銭を要求する攻撃です。近年では、暗号化だけでなく、盗み出した情報を「公開する」と脅す二重恐喝型の攻撃も増えています。
これは一時的な流行ではなく、企業が継続して向き合うべき経営リスクだと言えます。
ランサムウェアは「大企業だけの問題」ではない
また、国土交通省の資料では、2023年上半期のランサムウェア被害について、大企業30件、中小企業60件と、企業規模を問わず被害が発生していることが示されています。業種別でも、製造業、サービス業、卸売・小売業など幅広く被害が確認されています。 つまり、攻撃者は「有名企業だから狙う」のではありません。侵入しやすい企業、止まると困る企業、復旧を急がざるを得ない企業を狙います。
狙われやすい企業の特徴
1. VPNやリモートアクセス機器を使っているが、管理が不十分
テレワークや拠点間接続のために、VPNやリモートアクセス機器を利用している企業は多いでしょう。しかし、古い機器を使い続けている、脆弱性対応が遅れている、ログを十分に残していない場合、攻撃者の侵入口になります。 名古屋港の事例では、保守用VPN機器経由の侵入が疑われ、さらにログが暗号化されて原因特定が困難になったことが報告されています。
2. 従業員アカウントの管理が甘い
ランサムウェア攻撃は、システムの脆弱性だけでなく、ID・パスワードの窃取から始まることもあります。 KADOKAWAの公表資料では、フィッシングなどにより従業員のアカウント情報が窃取され、それを使って社内ネットワークに侵入され、ランサムウェア実行と個人情報漏えいにつながったと推測されています。 パスワードの使い回し、多要素認証の未導入、退職者アカウントの放置などは、攻撃者にとって大きな入口になります。
3. バックアップはあるが、復旧できるか確認していない
「バックアップを取っているから大丈夫」と考える企業もあります。しかし、ランサムウェアではバックアップ領域まで暗号化されたり、復旧手順が整っておらず業務再開に時間がかかったりすることがあります。 重要なのは、バックアップの有無ではなく、「攻撃を受けた後に本当に復旧できるか」です。バックアップをオフラインまたは別環境に保管し、定期的に復旧テストを行うことが重要です。
4. 業務停止の影響が大きい
医療、物流、製造、教育、士業、ECなど、システムが止まると業務継続に大きな影響が出る業種は、攻撃者にとって「支払いに応じる可能性がある」と見なされやすくなります。
徳島県のつるぎ町立半田病院では、ランサムウェア感染により電子カルテをはじめとする院内システムが使えなくなり、通常診療の再開まで約2か月を要しました。(半田病院)
5. 取引先や委託先との接続が多い
自社のセキュリティが一定水準でも、委託先、保守ベンダー、グループ会社、取引先との接続が攻撃経路になることがあります。
IPAの2026年版でも「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」が組織向け脅威の第2位に挙げられています。(独立行政法人 情報処理推進機構)

実際の被害事例
KADOKAWA:個人情報254,241人分の外部漏えいを確認
KADOKAWAは2024年、ランサムウェア攻撃に起因する情報漏えいを公表しました。公表資料では、外部漏えいが確認された個人情報は合計254,241人分とされています。取引先、従業員、元従業員、学校関係者など、幅広い情報が対象になりました。
この事例から分かるのは、ランサムウェア被害は「システム停止」だけで終わらないということです。個人情報の漏えい、SNSや掲示板での拡散、問い合わせ対応、削除要請、法的対応など、被害後の対応コストも大きく膨らみます。
つるぎ町立半田病院:電子カルテが使えず、通常診療再開まで長期化
徳島県つるぎ町立半田病院では、ランサムウェア感染により電子カルテなどの院内システムが利用できなくなりました。通常診療を再開できたのは、攻撃発生から約2か月後です。(半田病院)
医療機関に限らず、業務の中心システムが停止すれば、受注、出荷、請求、顧客対応などが止まります。復旧に時間がかかれば、売上損失だけでなく、顧客や取引先からの信頼低下にもつながります。
HOYA:医療関連情報や採用関連情報が外部流出
このように、被害は顧客情報だけでなく、採用情報、従業員情報、取引先情報にも及びます。「顧客データベースは持っていないから大丈夫」とは言えません。
企業がまず確認すべき対策
ランサムウェア対策は、高度な製品を入れる前に、基本の徹底が重要です。 まず確認すべきなのは、外部公開されている機器やVPNの脆弱性対応です。使っていないサービスは停止し、必要な機器は最新状態に保つ必要があります。
次に、アカウント管理です。多要素認証を導入し、退職者や不要アカウントを放置しないこと。管理者権限を必要最小限にすることも重要です。 さらに、バックアップは必ず復旧テストまで行うべきです。バックアップが存在していても、暗号化されていたり、復旧手順が分からなかったりすれば、実際の被害時には役に立ちません。
最後に、被害を前提とした初動対応の準備も欠かせません。感染が疑われたときに、誰が判断し、どの端末を隔離し、どこへ連絡し、どの順番で復旧するのか。事前に決めておくだけで、被害拡大を抑えられる可能性があります。
まとめ:「狙われるか」ではなく「侵入されても止められるか」
ランサムウェア対策で危険なのは、「うちは大丈夫」と思い込むことです。 攻撃者は企業規模や知名度だけで標的を選んでいるわけではありません。侵入しやすい環境、止まると困る業務、復旧を急がざるを得ない企業を狙います。 だからこそ、今必要なのは「狙われない対策」だけではありません。侵入される可能性を前提に、早く気づき、広げず、復旧できる体制を整えることです。
ランサムウェアは、情報システム部門だけの問題ではなく、事業継続、取引先対応、顧客信頼に直結する経営課題です。 「うちは大丈夫」と考える前に、まずは自社の弱点を確認することから始めましょう。